手は指の関節やしわなどが多く、体の部位の中でもデッサンするのが難しい場所です。手の描き方には、正しい手順があります。
この記事では、初心者でもわかりやすい手の描き方とポイント、実際にアニメーターが手を描く際にどんなことを意識しているか、様々な手の表情についての考察などをまとめました。
※この記事で紹介している内容はご本人の許可を得て掲載しています。
この記事の目次
初心者向け講座 手のイラストの描き方の手順
手は、指・手のひら・関節・しわなど描く部分が多く、体の中で最も難しいパーツのひとつです。
以下の手順に沿って描くことで、バランスのとれた自然な手に仕上がります。
手のひらからアタリを描く
まずは、手のひらからアタリを描きます。アタリとは、大まかな形を円や四角などの簡単な図形で下書きすることです。
手には色々な部位がありますが、簡略化した図形で捉えていくことがポイントです。
アタリを線に簡略化する
ある程度、手のデッサンを描けるようになった人は、アタリを線で簡略化することもできます。
簡略化は、指側の曲線と手首側の線を描きます。線で簡略化することで、手を立体的に捉えられるようになります。
アタリを線で描く際に注意すべき場所は、親指の付け根部分の盛り上がっている場所(母指球)です。母指球には、母指球筋という筋肉があり、親指の動きに合わせて線が大きく変わります。
ブロックごとに実線を描く
アタリを描いたら、次はブロックごとに実線を描いていきます。ブロックは大きく分けると、「親指・小指・残り3本の指」の3つです。
たとえば、手を開いた状態の絵を描くときは、アタリの上の線に小指・薬指・中指・人さし指を描きます。このとき、小指だけを短く描いて、残りの3本はほとんど同じ長さで描いて問題ありません。
また、親指を描く際には、親指の付け根部分(母指球)も一緒に描きます。母指球は親指とともに動くためです。
手を上手く描くポイント
色々な部位があり、複雑な構造の手の描き方には、いくつかのポイントがあります。このポイントさえ押さえておけば、初めての人でも簡単に描けるようになります。
水かきを描く
人間の指と指の間には「水かき」という部分があります。人の手を上手に描くためには、この水かきを描くことが重要です。
水かきは、手のひら部分から外側にいくにつれて薄くなっています。手を広げたり閉じたりすることによって、引っ張られたりしわになったりします。
親指と人さし指の間にも水かきがあるので、描くのを忘れないよう注意しましょう。
指を閉じているときは、水かき部分が収縮して少し空間ができます。この空間こそが、人間らしい手を描くポイントです。
指の並びは弧を描くように
実際に手を広げてみると、指先と指の付け根が弧を描くラインになっていることがわかります。
手の指の並びは、弧を描くようにしましょう。手のひらのアタリで曲線を描くのはこのためです。
関節を意識して描く
手を上手に描くためには、関節を意識することも重要です。手には、たくさんの関節が集まっています。
主な関節は、手首・指の付け根・指の関節です。これらの関節が実際にどのように動いているのかを、手をグーパーと閉じたり開いたりして観察しましょう。
手の関節は、下記の手順に沿って描きます。
- 手首の関節の位置を決める
- 指の付け根の関節の位置を決める
- 親指と母指球を描く
- 残りの4本の指の関節を描く
手首の関節は、手をどの向きにするかを決める重要な場所です。また、親指の付け根関節は、他の指とは離れている場所にあるので、少し離して描くことに注意します。
残りの4本指の第1関節・第2関節は、それぞれを結ぶ線が弧を描くように意識します。
手のデッサンの注意点
手をデッサンする際には、不自然に見えないための注意点がいくつかあります。
手の大きさに注意する
手のデッサンをする際には、手の大きさに注意しましょう。手の大きさは、年齢や性別によって変わる、描く人の特徴を表す重要なパーツです。
幼児期の子供の手は小さく、大人になるにつれて大きくなっていきます。成人男性の場合、顔(髪の生え際から顎まで)の大きさと、手の大きさはほぼ同じです。
女性の場合は、手を顔よりも少し小さめに描きます。また、子供であればより小さく描くようにしましょう。
指は指の根元から曲がるわけではない
人間の指は、指の根元から曲がっているわけではありません。これはデッサンで手を描くときに、最も多く間違えてしまうポイントです。
指の付け根部分ではなく、手のひら上部の中手骨と指骨の関節で指は曲がります。手のひら部分の太い横しわに沿って曲がっていることを意識しながら描きましょう。
手は中心に向かって指が閉じる
人の手は、中心に向かって指が閉じるようになっています。そのため、閉じた手をデッサンする際には、指が手のひらの中心に向かっているように描きます。
すべての指が同じ方向に向いて閉じることは、人体構造上ありえないため注意しましょう。
手の描き方
小指側から見た際の人差し指の長さ
上段左の手の解説イラストは、間違っている例で、人差し指の関節が長くなってしまっています。上段右の解説イラストのように、人差し指の関節を一段下げてあげると、正しい指の形になります。
下段の解説イラストは、別のアングルから見た際の、指の形です。中指の第3関節に隠れた、人差し指の第3関節をイメージできていないと、上段左や、下段左の解説イラストのような手を、描いてしまいがちです。下段右の手のように、どんなアングルでも、指の関節の位置が描くアーチを、忘れないようにしましょう。
この現象が発生する原因を、2点挙げられております。
・一人称視点で小指側から手を見る機会が少ない。
・人差し指の第2関節のシルエットを意識しすぎている。
自分の手を見てみると分かりますが、自然体ではどうしても、親指側の視点から見てしまいがちで、人差し指のシルエットが目立って流されてしまう、ということですね。
握った際の薬指
中指が一番長いということは有名ですが、物を握ったりした場合、薬指が先端になることが多くなります。何も持たない状態の手も見ても、薬指が先端になっています。自分の手で、実際に解説イラストの手の形を作って、確認してみましょう。
何故、自然体では中指が一番長いのに、物を握った際には、薬指が一番長く見えるようになるのか。それは、指の付け根の位置と可動域の差で、指を折り曲げた際の先端順位が入れ代わることによって、起きる現象との事です。
手を描くときのポイント
次は、実際に握ったり開いたり、奥へ伸ばしたり手前に向けたり、手の様々な表情をまとめていらっしゃった、はしぇころさんのイラストから、手の描き方のポイントを学んでいきましょう!
※この記事で紹介している内容はご本人の許可を得て掲載しています。
(1)奥へ伸ばしている手
手を奥に伸ばしている構図なので、奥にある指よりも手前にある手の甲が大きく見えます。手の外側の輪郭線は丸みを意識して、尺骨のある部分は輪郭線を盛り上がらせましょう。
(2)ペンを握っている手
曲げている親指の先端から一つ目の関節に向けて、カクンと角度がついています。横から手を見ているので、人差し指と中指の関節の骨が出っ張りとして二つの山のように見えています。
(3)横から見たときの手
中指の関節の山の上から、人差し指の関節の山も少し見えています。 手を内側に曲げている絵なので、内側の手首付近に手のシワができます。
(4)中指と薬指を親指にくっつけている手
深く曲げている中指と薬指の影響で、手のひらに多くのシワができます。手の右側の輪郭線を描く際、親指の輪郭線からの繋がりを意識しましょう。
(5)手前に向けて開いている手
開いている手の指は、手の中心から外側へ広がっていきます。 思い切って手を開くとそれぞれの指は外側に反るので、ふわっと上がるようなイメージで描きましょう。
(6)手前に向けて握っている手
手首の骨の出っ張りの影響で、上部の輪郭線に少しへこんでいるような谷ができます。谷が終わった後の輪郭線は丸みを意識しましょう。
(7)手のひらを向けている手
親指の先端から一つ目の関節、一つ目の関節から二つ目の関節まで、カクカクとした輪郭線を描きます。小指側に少し力を入れている手なので、力の入れ具合と一緒に手のシワもひずんでいきます。
(8)手の甲を向けている手
手の甲の左側の輪郭線は丸みを意識して、小指の関節はガクンとめりはりをつけましょう。薬指の先端の輪郭線は、爪がある部分からへこんで見えます。指を奥の方に向けている構図なので、指の関節の前後で遠近感を出しましょう。手首の右側の輪郭線は骨の部分が出っ張るので、手と手首の間にくぼみができるのもポイントです。
(9)手前に指を向けている手
中指と人差し指を手前に向けている影響で、親指の付け根付近がねじれて小さいシワがたくさんできます。親指の関節と関節の間でへこみができるので、凹凸を意識して描きましょう。関節の凹凸をしっかりと表現できると色っぽく見えます。
(10)ドリンク剤を持っている手
物を握る際は小指側に強い力がかかります。小指には強い力がかかっているので曲がりが深くなり、逆に人差し指は力がかからないので、握っているというよりは支えているように見えます。人差し指の関節の位置から小指の関節の位置にかけて、曲線をイメージしましょう。
(11)奥へ向けている手
手を少し奥の方へ向けているので、人差し指、薬指、中指の先端が揃って見えるアングルになっています。親指の付け根あたりのシワがどこから来ているのか、線の流れを意識しましょう。手を外側へ曲げているので、手と手首の間で深い谷のようなくぼみができます。手から手首の輪郭線に入る前に一回止めるように線を描きましょう。
手イラストの練習方法
まずはご自身の手をスケッチし、アタリをとる練習をおすすめします。手のイラストのポイントは手全体を1つとして考えず、いくつかのパーツに分けて捉えること。パーツのアタリをとってから、指や手のひらを描く練習をしてみましょう。指や手のひらはどこで曲がるのか、シワはどこに出来るのか、指のどこが膨らんでいるのか……など観察によって気がつくことがたくさんあるでしょう。
上達のためのおすすめ本3選
『手の描き方 神志那弘志の人体パーツ・イラスト講座』
アニメ『HUNTER×HUNTER』の監督で、原画マンや作画監督、演出家として『Dr.スランプアラレちゃん』や『シティハンター』などのアニメ制作に携わってきた神志那弘志さんによる、手の描き方の解説本です。プロのアニメーターへの指導経験からくる手の描き方の基本の解説のほか、男性・女性など性別、少年・老人など年代別、肥満など体型、ゾンビ・獣など人外の場合など創作の参考になる作例が充実しています。
『絶対可憐チルドレン』『DEATH NOTE』などの作品で作画監督・キャラクターデザインを務められてきたアニメーター・加々美高浩さんによる手の描き方解説本。「図形アタリ」や「ブロックアタリ」などこの記事でも紹介した方法を詳しく解説しています。特典として、ラフから影の付け方まで学べる動画や手のポーズの写真集も付いています。
『手足の描き方 マスターガイド (廣済堂マンガ工房) 』
『手足の描き方 マスターガイド』は、手足の基本的な描き方とともに「わしづかみの手」「つまむ手」などシチュエーション別の手の描き方が学べる本。指の関節の曲がり方やシワの出来方などをいろいろな角度で見てトレース練習することができます。
まとめ
手は人間の体の中でも特に複雑な構造をしていて、描くのが難しい箇所だと思います。TVアニメに出てくるキャラクターのような、綺麗な手を描きたい……。そんなときは、この記事を参考にしてみて下さい。
最後に、普津澤時ヱ門さん、はしぇころさんのプロフィールをご紹介します。
普津澤時ヱ門さんはアニメーターとして、原画、作画監督、総作画監督、キャラクターデザインのお仕事をされていらっしゃいます。TVアニメ作品「ろんぐらいだぁす!」のキャラクターデザイン等、アニメーション業界を中心に、幅広くご活躍されていらっしゃいますので、ぜひご覧ください!
はしぇころさんも、素敵なイラストを投稿されてますので、ぜひご覧ください!
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