これからデジタルイラストを始めるデジタル初心者さんのための、『とことん解説! キャラクターの描き方入門教室 CLIP STUDIO PAINT PROで学ぶデジタルイラストの基本』が、2018年9月21日にSBクリエイティブさんから発売されました。
著者は、フリーランスのイラストレーターとして活躍している乃樹坂くしお先生です。キャラクターデザイン、衣装デザインなどゲーム系イラスト制作等を行う、人気イラストレーターさんです。
今回は乃樹坂くしお先生に、出版された書籍の裏話や見どころについてお話を伺いました。
クリスタの基本操作から顔の構造まで。ボリュームのある技法書
インタビュアー(以下、イ):『とことん解説! キャラクターの描き方入門教室 CLIP STUDIO PAINT PROで学ぶデジタルイラストの基本』を出版された経緯を教えてください。
乃樹坂くしお先生(以下、乃樹坂):
僕はもともと同人誌でデジタルイラスト入門書のような本を制作していて、その本の評判もあって今回書籍化のお話をいただいたんです。
お話をいただいたときも、中級者から上級者向けの技法書というものはすでにたくさん世の中に出回っているけれど、完全に1から描いてみようという書籍はなかなか無いと話していたんです。だから、そういった初心者さんに向けた技法書を作ろうと。
イ:具体的には、どういった内容の書籍なのですか?
乃樹坂:CLIP STUDIO PAINT PRO(以下、クリスタ)という絵描きソフトを使ってデジタルイラストを制作するのですが、そのソフトの使い方から学べるものになっています。
ソフトのインストールから始まって、実際にイラストを描くときの基本操作までご紹介しているので、これを見ていただければクリスタの基本的な使い方は理解していただけます。そこから、ラフの起こし方や色の塗り方まで、イラストそのものの描き方を細かく解説しています。
この本一冊で、クリスタの使い方を知ってまずは一枚のデジタルイラストを完成させてみようという狙いがあります。
イ:デジタルイラスト始めたての人にとってはすごくありがたい本ですね。
乃樹坂:そうなんですかね?(笑)。一般的な技法書だと、例えばポーズを考えてみよう!という文章があったとして、その完成形だけが出ていることが多いんですよ。
それが僕らプロのイラストレーターや描ける人にとっては当たり前のことなんですが、そのアイデアが出るまでのプロセスがどうなってるのかを初心者さんは知りたいわけなんですよね。
だから今回の書籍ではクリスタの立ち上げ方や顔の構造がどうなっているかなど、本当に初歩的な部分から解説するように心がけました。
イ:構造の話からすると、ページ数が足りなくなりませんでしたか?
乃樹坂:そうですね、実際250ページくらいの大ボリュームになってしまったので編集さんと添削を繰り返して、200ページに抑えました。
でもできるだけ初心者さんが書籍を読んで、使い方や描き方がわからないということがないように気をつけました。構造やバランスがわかれば、角度を変えても描けるのでその解説も盛り込んでいます。
イ:この本の見所を教えてください
乃樹坂:クリスタの立ち上げからキャラクターの描き方を1から解説するだけでなく、実際に使用している色やカスタムペン・ブラシ、を全て記載しています。
また、塗りだけ練習したいという方に向けて線画データを配布しています。また、僕がオススメしているワークスペースの設定を素材として配布していて、ソフトが使いにくいと感じた方にも使いやすくできるんだぞ、という感じで絵を描く敷居を下げる工夫などもしています。この本に書かれているプロセスに沿っていけば、作例イラストをそのまま完成させることができるように構成しています。
イ:配布している特典が豪華ですね
乃樹坂:はい、使えるものは全て使うべきだと思うので。資料を見ない方がすごいとか早く描けた方が偉いとか、そう言った先入観を捨てて欲しいというのが僕の考え方です。
例えば3Dモデルなどのソフトを使うことが卑怯ではないということです。3Dモデルや資料はあくまでもただの便利な道具なので、苦手を克服するために有効なものはどんどん使うべきなんですね。
実際僕も手を描くのが苦手なので、難しい時はデッサン人形や3Dモデルを使いますし、そういったものに拒否反応が出ないようにしていただきたいです。
制作中に苦労したこと
イ:本を描いていて苦労したことは何ですか?
乃樹坂:僕が同人誌を作っていた当時はまだ描けない人に対しての理解が深く、初心者がつまづきやすいポイントを見て、ここを描くのは難しいよねと思っていたのですが、もう描けるのが当たり前になってきているのでもう一度初心に帰って当たり前になっている知識や技法を見つめ直すことが大変でした。
描けることが前提になって話が進んでしまうのはこの本の方向性と真逆になるので、感覚に頼らない解説を心がけました。
イ:感覚に頼らず、理論的に説明するためにどのような工夫をしましたか?
乃樹坂:編集さんが、普段絵を描かない人の目線で本の構成にアドバイスをしてくださったので、それにすごく助けられていました。
なるべく詳しく、丁寧に描こうと心がけていても、どうしても当たり前だと思って無意識に解説できていない部分があるんです。それを編集さんが描かない側の目線だといきなり飛んで見えるからもっと詰めてほしいと教えてくださったんです。
そうやって詳しく書いているうちにまたどんどんページが増えていったんですけどね(笑)。
イ:ページ数が多くなることには苦労しませんでしたか?
乃樹坂:ページ数よりも、解説用の画像の用意に苦戦しました。400〜500枚くらい描いたと思います。クリスタの使い方と絵の描き方が並行して解説されている時は、塗りの書き出しボタンを押している画像をスクリーンショットして、次の手順に移っている画像をスクリーンショットして…というふうにかなり時間をかけました。
解説の順序と違ってはならないので、間違えてしまった場合はそれまでスクリーンショットした画像を全て消去しなくちゃいけないんですよ。きちんと書き出した画像にも順番通り名前をつけたり、画像のトリミングをしたりなど、イラストを描く以外の部分での労力が多かったです。
自分がつまずいたから、この本を作りたいと思った
イ:もともと同人誌で同じような内容の本を出版されていたとのことですが、同人誌と商業書籍ではどのような違いがありますか?
乃樹坂:同人誌の場合は、本の値段や印刷する部数まで自分で決めなくてはならないので、多くても32〜36ページくらいで解説をまとめないといけないんですね。
そうなってしまうと描きたい部分もかなり省略しないといけないので、やはり商業書籍はように全ての工程に詳しい解説をつけられるのはありがたかったです。
本来1ページで済ませるつもりだった部分も、ある程度ページに余裕があったので今まで解説できずに溜め込んでいたネタを消化できました。
イ:なぜ前からデジタルイラストの入門書のような内容を書いていたのですか?
乃樹坂:もともと僕自身、社会人になってから絵を描き始めた人間なんですよ。それまではずっと絵なんてほとんど描いたことがなくて、棒人間を描くのがやっとみたいな感じでした。
なので大人になってから描きたいと思い始めた人に向けてハウツー本を出せたらなという思いで同人誌を作っていました。よく、子供の頃から描き始めていないと上手く描けないとか、プロのイラストレーターにはなれないという人は多かれ少なかれいるのですが、僕はそれをそんなことないよと伝えたくて。
大人になってからでも、きちんとしたプロセスを踏んで練習をして、毎日描き続けていれば、プロになれるんだよっていうのを伝えたいんです。
イ:具体的にいつ頃から絵を描き始めたのでしょうか?
乃樹坂:2009年からですね。そこまでちゃんと絵を描いた経験はほとんどなくて、描いたとしても教科書の著名人に落書きとかしていました。
イ:なぜ絵を描こうと思ったのでしょうか?
乃樹坂:絵を描き始める前は、僕はオンラインゲームが好きで、そればかりやっていたんです。その中でいろんな方とチャットで、趣味や普段何をしているかという話題になって他の方々がそれぞれの趣味を答えていたんですが、僕は答えられなくて。
僕もみんなも今やっているこのゲームが趣味なんだと思っていたんですが、ゲームは息抜きであって趣味ではないという感じのスタンスの方が多かったんです。じゃあ僕はこのゲームが仮にサービスを終了してしまったら、趣味が何もないじゃないかと思ったんです。
それで数日どうしようかなと考えたんですが、絵だったら誰でも描けるじゃないかと思ってその足で池袋にあるビッグカメラに行ってペンタブを買って帰ってきました(笑)。
イ:そこからは完全に独学で絵の勉強をされたのですか?
乃樹坂:そうですね、でもやはり右も左もわからない状態から始めたので、自分の知人で絵を描いている方に教えてもらいながら勉強していました。
4、5年程かけて絵の練習を続けて、同人誌を描き始めたり少しずつ絵の仕事も増えたな、という段階でイラストレーターとして食べていこうと決めました。
イ:そういった経験が今回の書籍に繋がったんですね
乃樹坂:はい。やはり描ける人は感覚で説明することが多いかと思うんです。よく、「ガシガシ描きます」とか言いますけど、その「ガシガシ」の中身はなんなのかを考えてそれを説明できるのであれば初心者の方にもわかりやすく解説できるのではないかと思ったんです。
僕自身、描き始めたときの苦しみや本を買ってもわからない部分が多すぎたことがあったんですね。順を追って描けば本の絵の通りになる技法書を作りたいと思うようになり、経験を生かして商業誌を作ることができました。
乃樹坂くしお先生から皆さんへメッセージ
イ:イラストを描こうとしている人や、これから描こうとしている人に向けてメッセージをお願いします
乃樹坂:難しくてもうやめてしまいたいと思う時もあると思うんですが、1日5分でも10分でも続けることが重要です。
惰性でも良いから描き続けていると、続けていて良かったなと思う時がほぼ必ず来ると思うので、辛くなってもまずペンを持って丸でも三角でも、目だけ、顔だけでも良いので何かしら描いて欲しいです。今諦めるのは勿体無いので。
やろうと思った時点で上手くなる素質は絶対にあると思います。描こうと思ってペンを持った瞬間にスタートは切れているので、あとは続けるだけです。本当に少しづつで良いので進めてみてください。
乃樹坂くしお先生、本日はありがとうございました!
編集後記
ペンを持った瞬間に、絵が上手くなる素質を持っている。あとは使える道具は全て使って知識や技術を吸収し、根気強く続けること。たった数年でプロのイラストレーターになった乃樹坂くしお先生の言葉だからこそ、努力の重みを感じました。
皆さんも、『とことん解説! キャラクターの描き方入門教室 CLIP STUDIO PAINT PROで学ぶデジタルイラストの基本』でクリスタの基本操作からキャラクターの描き方、イラストを描くときの考え方まで学んでみてはいかがでしょうか?
今回インタビューさせていただいた乃樹坂くしお先生の『とことん解説! キャラクターの描き方入門教室 CLIP STUDIO PAINT PROで学ぶデジタルイラストの基本』はこちらからお求めいただけます!ぜひお求めください。
また、乃樹坂くしお先生はお絵描き講座パルミーで『CLIP STUDIO PAINT デジタルイラスト入門講座』を実施しています。クリスタの使い方とキャラクターの描き方を動画で学ぶことができます。こちらも併せてご覧ください。