女子高生の短い青春と、等身大のきらめきを一冊に閉じ込めた作品集、『青春女子高生』が2018年6月28日にKADOKAWAさんから発売されました。
著者は、フリーランスのイラストレーターとして活躍している和遥キナ先生です。ホラーゲーム「祝姫」のキャラクターデザインを手がけたほか、一迅社『境界の皇女』(著/吉村りりか)やファミ通文庫『近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係』(著/久遠侑)といったライトノベルの表紙、挿絵を担当した人気イラストレーターさんです。
今回は和遥先生に『青春女子高生』の制作秘話や裏話、見どころについてインタビューさせていただきました!
この記事の目次
『青春女子高生』は最初、『女子高生百景』だった⁈
インタビュアー(以下、イ):まず、『青春女子高生』を作ろうとしたきっかけを教えてください。
和遥キナ先生(以下、和遥):今回は出版する本一冊にテーマがあって、かつ何度も読み返したい本を作りたい!という想いをきっかけに作り始めました。
今まで出版した商業画集は仕事で描いてきたイラストを集めて作った一般的な画集だったので、その画集一冊の統一感やテーマのようなものがあまりありませんでした。だから、画集ではなく単行本として本を作ろうと思ったんです。
イ:今回出版された『青春女子高生』はテーマを決めてから制作し始めたということでしょうか?
和遥:はい、でも実は最初、「女子高生百景」というタイトルで作っていたんです。最近の女子高生のトレンドとか、制服の違いとか地域性、着こなしなどを図鑑的に解説していく本にしようかなと思っていたんですよ。
ただ、作っている途中で、幅広い世代の人たちに届けたいと思い始めて、この方向性ではマニアックすぎるなと考え直したんです。
制服とか、着こなしといった視覚的な情報よりも、女子高校生の3年間のきらめきそのものにフォーカスしたいと思って、『青春女子高生』というタイトルにして中身もガラッと変えたんです。
イ:方向転換したきっかけなどがあったのでしょうか?
和遥:既存のファンの方々だけじゃなく、もっと若い世代の方にも見て欲しいなと思うようになったからでしょうか。
イ:若い世代の方にも届くように工夫したことはなんでしょうか?
和遥:Instagramを使って、実際に女子高生とやりとりをしたことです。
僕は街角で見かけた女子高生の制服とか髪型とか着こなしをスケッチしてイラストを描く、「毎日JK企画」というものをやっているんですが、それを最近Instagramに投稿するようになったんです。そうしたら女子高生から私も描いてください!ってリクエストがたくさん来るようになったんですね。
そこで女子高生とやりとりをするようになって、実際の女子高生にも共感してもらえるような、きらめいている女子高生を描きたいと思うようになったんです。
制服のコーディネートに悩んだ時などにInstagramを使って女子高生にアンケートをとりました。
イ:やりとりの中で実際の女子高生像を掴んだのでしょうか?
和遥:はい、アンケートをとると学校で流行っている制服の着こなしや色使いなども教えてくれるんですよ!
なんでそういうの着るの?とか質問すると、どんどん教えてくれるので、これは作品に反映させないと!と思いました。
イ:他にはどんなことを工夫したのでしょうか?
和遥:女子高生や男子高校生にも買ってほしくて、かなり手に取りやすい価格設定にしました(笑)!税抜きで1300円です。
カラー画集にしたいけど、若い子が手に取れない値段ではダメだと悩みながら決めました。編集の方は、誠意を持って対応してくださって原稿料とかも出していただいたんですが、明らかにその原稿料を上回る量を描いているなという感覚はありました(笑)。
でも僕の中では採算とか何も考えていないので、若い子に手に取っていただけたらなという気持ちでこの価格に設定しました。
ノスタルジーな世界観の封印と、創作意欲の爆発
イ:今までの画集との違いについて教えてください。
和遥:ちょっと難しい話なんですけど、僕、大分むぎ焼酎の二階堂のCMが好きなんですよ。二階堂のCMのようなノスタルジーな世界観がとても好きで、今までの画集は自分の好きなノスタルジーな世界を表現していたんです。
それが僕の一つの持ち味だったし、僕自身も楽しく描いていたんですけど、喜んでくださるのは僕より年上の方々だったんですね。
でも今回は若い子にも作品を見て欲しいという気持ちが大きかったので、二階堂的なノスタルジーな世界観をやめて、もっと今のリアルな青春を描こう!二階堂をやめて、一階堂にしよう!と決めました(笑)。
つまり今までの画集との大きな違いはノスタルジーな世界観のイラストを封印したということですね。
イ:他にはどんなところが今までの画集と違うのでしょうか?
和遥:作品集に詩を入れたことですね。この詩は僕が書いたものではなくて、晴乃小雨さんという方に協力いただいたんです。
直接お話ししたことはなかったのですが、小雨さんが会長として運営している日本セーラー服協会というグループに僕も入っていたんです。僕が撮った写真とか、セーラー服協会が出している同人誌のカバーイラストを提供していました。そういう関係があって、前々から小雨さんの素敵な詩を拝読していたんです。
あと、僕の嫁が小雨さんの詩が大好きなんですよ。それで、まだ僕の本が女子高生百景だった時に、勝手に嫁と2人で小雨さんの詩をいくつか入れて編集さんに見せたところ好評いただけて。
イ:それで作品集に詩を入れたんですね。
和遥:はい、でもこの段階ではまだ小雨さんに詩を入れることをご許可いただけてないんです(笑)。
セーラー服協会で発表している作品のデザインを担当しているサイトウ零央さんという方がいるんですが、この方に僕の初画集と今回の作品集のデザインも担当してもらってるんですね。
で、零央さんに小雨さんの詩を入れた僕の作品を見せたところ、絶対に入れた方が良い!と言っていただけて。
零央さんと小雨さんは普段からお二人で仕事のやりとりをされているので、そこから正式に小雨さんを呼ぶ運びになったんです。
イ:日本セーラー服協会あってこその繋がりなのですね。
和遥:そうなんです。僕の作品制作グループに小雨さんに入っていただくことになって、僕と小雨さんと零央さんと編集さんの4人で秋葉原の和民という居酒屋で顔合わせをしたんです。
そこで話し合いをしていたら、小雨さんの口から出てくる言葉が全てエモーショナルで、1つ1つの会話が作品じゃん!って感動して。
小雨さんが発する言葉が女子高生の世界観だなというふうに感じたんです。嫁が女子校に通っていたので、当時の話を聞いたりするんですが、それに近しいものが小雨さんの言葉にはあったんですね。
そこで初めて、僕が今まで男子目線でしか女子高生を見ていなかったことに気づいたんですよ。女子から見た女子高生の世界にフォーカスすることが初めてできたんです。
その後も小雨さんと女子高生の世界観についてヒアリングをしていたら、どんどんイマジネーションが湧いてきてしまって、それとInstagramで実際に女子高生とやりとりをしたことが全部繋がって、創作意欲が爆発したんです!
イ:そこから順調に作品集を進められたのでしょうか?
和遥:はい、でもその創作意欲が爆発するまでは女子高生百景として作品集を作ってたんですけど、それを全部ぶち壊してしまって(笑)。
女子高生百景に感じていたモヤモヤ感を払拭する世界観に出会えたので、それがきっかけとなって青春女子高生にシフトしたんですね。入稿期限の2ヶ月前くらいにずっと進めてきたものをボツにしたので、かなり大きなちゃぶ台返しをしてしまいました。
編集さんはすごい真っ青な顔されてたんですけど、僕のやる気は止まりませんでした。
イ:小雨さんとの出会いが、作品集のコンセプトを変える引き金になったんですね。
和遥:そうですね。でも、昔の話になるんですが、零央さんとお会いした時もそれまであまり触れてこなかった写真の世界にのめり込むようになって、自分の作風がかなり変わったんですよ。
そこからまた小雨さんと出会って、作風に劇的な変化をもたらしていただいたので、お二人があってこその作品集なんです。セーラー服協会のメンバー最強!みたいな(笑)
今までと全く違う制作スタイルに
イ:制作中どんなことを考えていましたか?
和遥:考えるよりも先に描きたいものが無限に溢れかえってしまっていて、手が創作に追いつかないという状況でした。
普段は悩んで悩んで、一週間くらいかけて構図を1つ思いつくみたいな感じなんですけど、小雨さんの言葉を受けてから描きたいものが多すぎて、逆にアイデアを絞らなくてはいけなくなりました(笑)。
イ:では今後も悩まずに描けそうなのでしょうか?
和遥:そうですね、あと1年くらい絵のストックがあるんじゃないかと思うくらいアイデアが溜まっています。
今後の制作スタイルがガラリと変わるんじゃないというくらい、この本を通じてクリエイターとしての考え方が変わりました。作風も制作ペースも、絵を描く上での考え方も全て今までとは違うものになりそうですね。
イ:制作中1番苦労したことはなんでしょうか?
和遥:漫画ですかね。漫画のテンポ感がうまく掴めなくて、妙なラブコメ感があったんですよ。それが良いとは思えなかったのですが、男子が最後に出てきて、女の子可愛すぎる〜みたいなオチが必要なのかなって思ってたんです。
その時に例の和民会があって、小雨さんの話を聞いてJKの世界観をInstagramと交えて完全理解したので、それからこれだ!と納得のいく漫画を描けるようになりました。
イ:和民会で本当に大きな影響を受けられたんですね!
和遥:はい。他には、僕は作品に対して気負いすぎていたところがあって苦労していたんですけど、零央さんに「キナさんの絵は完成しすぎてないところが良い!」と言ってもらえたんですよ。
まだラフの段階の絵を見せた時にラフの方がいい!とかこの線が良い!とか褒めてもらえて。僕も完成させた作品よりラフの方が良いと思うことがあったんですけど、それは完成させたものが正しい線を捉えることができなかったからだろうと思ってたんです。
でも零央さんは思春期の女子高生のまだ完成されていない、定まっていない雰囲気がラフの線に出ていると言ってくれたんですよ。確定していない、そこが女子高生の魅力であるって言われて、改めて自分の絵を見返したら確かにそうだなって思えたんです。
未完成が完成であるっていう、作品のゴールの定義が変わりました。それから僕も気負うことなく、完成させない絵を意識的に描くようになりました。青春女子高生ではそういう挑戦がかなりされています。
イ:女子高生の不安定さのようなものがラフの線に表れていたんですね。
和遥:そうですね。今日はテンション高いけど昨日は落ち込んでいて、明日にはまた違う人間のようになる、女子高生の気持ちの移ろいやすさとか危うさを、輪郭が定まっていないラフの線で表現できているのかなと思います。
大混乱のカバーイラスト会議
イ:カバーイラストはどんなことにこだわって描きましたか?
和遥:誰もが納得のいくカバーイラストにしようと心がけました! カバーイラスト候補のイラストが4枚あって、最初はどれにしようか全く決まらなかったんです。
Twitterでその4枚のうちどれが良いかアンケートをとったんですけど、Dのイラストが良いと言う反応が多かったんですね。桜があるのが青春感があって良いですねという声があったんですが、僕の中で桜は全然青春じゃないなという気持ちがあったんですよ。青春といえば青じゃん!青空じゃん!みたいな(笑)。
それで、小雨さんに聞いたところC案が良いとおっしゃっていて。どんなことで悩んでいるのか色んな捉え方ができる絵だと、女子高生の閉じられた世界観が表現されていると言ってもらえたんですよ。
イ:確かに色んな解釈ができそうです。
和遥:ですが、編集さんがこれは表紙にするには少し暗すぎるんじゃないかと意見してくれたんですよね。
ちなみに編集さんはA案が良いと言ってたんですが、A案の少女は撮られることを意識している感じがしたんです。花を持って立っているという、何かしらの意思表示を強く感じて、僕の中でこれを表紙にするのはあまりしっくりこなかったんですよ。作られすぎた青春というか。
さらに零央さんはB案が良いと言ってくれて(笑)。青空の抜け感が青春を感じると評価してくれたんですよね。もうこれ全然決まらないじゃないかと悩みまくっていました。
イ:では最終的に表紙になったあのイラストはどのように描かれたんですか?
和遥:悩みに悩んだ挙句、編集さんがD案の横顔をそのままに、女の子の制服をセーラー服にして背景を青空にしたらどうですかと提案してくれたんです。
D案は男子に1番人気があったんですが、その新しい案にすれば男子にも受け入れられるし、女子の考える青春も表現できるので全ての意見を取り入れられるんじゃないですかって。
その通りだ!と思って描き始めました。
イ:そこからは順調に進められたのでしょうか?
和遥:それがD案の女の子が全然セーラ服が似合わなくて滞ったんです。僕も困惑しました(笑)。
どうしようと悩んだ末、女の子の髪の毛を切ってみたんです。そしたら途端に似合うようになって。女の子の意志の強さが見えながらも、共感性がある横顔と、爽やかな青春を感じさせる背景が絶妙にマッチしたんです。
描き終えてみんなに見せたら、満場一致でこれでいきましょう!って言ってもらえたので、今のカバーイラストになりました。誰かの意見が犠牲にされるのは嫌で、全員が納得するものを出さない限りは表紙を終わらせてはいけないと思ったので、最後までこだわり抜きました。
A案の祈りのような気持ちとB案の空の青春感、C案の不安定な女子高生の世界観とD案の意志の強さ、全ての要素を抽出した1枚になりました。
イ:ではD案の女の子とカバーイラストの女の子は同一人物なのでしょうか?
和遥:よく聞いてくれました!(笑)。それは決定したくないんですよ。
青春女子高生は全体的に確定したくない本で、作品に出てくる子たちが同一人物なのかどうかは各々の解釈で決めて欲しいんですよね。
前後関係を好きに構成できるので、想像の余地が広がるんです。無限の解釈の可能性があるので、あまり確定させるのは勿体無いなと。
イ:創作したイラストって、キャラクターとして個性を付けそうなのですが違うんですね。
和遥:女子高生はキャラじゃないなと思っているんです。本人たちの人生があるから、僕はその子たちの人生を決定するわけにはいかないんですよ。僕が彼女たちの人生を決めるのは大変身勝手な行為だと思うんです。
だから、何を考えているのかとかどんな人物なのかとかわからない方が良いんです。
イ:こだわり抜いた作品集の入稿を終えたとき、どんなお気持ちでしたか?
和遥:寂しかったです。もう描けないのかあ、みたいな。文化祭が終わった時のような気持ちでしたね。
気持ちがJKになっていました(笑)。疲れたけど、作品集を通して青春をしていた気がします。
『青春女子高生』の見所と、皆さんへのメッセージ
イ:『青春女子高生』の見所を教えてください
和遥:女子高生はちょっとしたことで世界のおわりを迎えるし、すぐ生まれ変わる。
そして、入学から卒業までの3年間で何度も生と死を味わうんですね。それが女子高生の世界観なんです。3年間がまるで一生かのような世界観を見て欲しいなと思います。
実はこの作品に、それを表現するための仕掛けが入っているんです。
ヒントとなる「輪廻転生」という言葉を意識しながら『青春女子高生』を見てもらえると、読み終えた時に何か発見があるかもしれません!
イ:最後に、これから絵を描こうとしている人や、描いている人に向けてメッセージをお願いします。
和遥:この本を通じて、イラストの技術的な完成度を高める以外にも絵を描く方法はあるということに気付きました。
自分の表現したいことは何なのか、もっと自分と向き合って見つけることが大事なんじゃないかなって。僕もあえて完成させないことで納得できるイラストになったので。
自分の伝えたいメッセージを強く押し出していった方が、一部のユーザーに共感してもらえて幸せになれるんじゃないかと思います。
幸せになれる絵の描き方をして欲しいと思いますね。
和遥先生、本日はありがとうございました!
編集後記
『青春女子高生』を描き終えた時は寂しかったという和遥キナ先生。この作品に対する情熱やこだわりを持って描き上げた作品だからこそ、そのような感想が出てくるのだと思いました!
今回インタビューさせていただいた和遥キナ先生の作品集、『青春女子高生』はこちらからお求めいただけます!
和遥先生の初画集『初恋』、商業画集第二弾『恋詩』も好評発売中です!
また、和遥先生はお絵描き講座パルミーで「風景と女の子」を実施されています。和遥先生のイラストメイキングを余すところなく動画でご視聴いただけます!こちらも是非ご覧ください!