男女の顔の描き分けに特化した、『男女の顔の描きわけ 角度別・年齢別・表情別のキャラデッサン』が、2018年5月24日に発売されました。
著者はイラストレーターとして活躍している YANAMi 先生です。フリーランスのイラストレーターとしてご活躍しているだけでなく、東洋美術学校のイラストレーション科コミックイラストコースで人体イラスト講師を務めています。
今回は、YANAMi先生に『男女の顔の描きわけ』の制作秘話や、見どころについてお話を伺いました。
この記事の目次
他の技法書では無い、デフォルメされた男女の描き分けに特化した本。
インタビュアー(以下、イ):『男女の顔の描きわけ 角度別・年齢別・表情別のキャラデッサン』は、どんな本なのか教えてください
YANAMi先生(以下、YANAMi):他のキャラデッサンの技法書では解説されていないような、デフォルメされている男女の顔の描きわけだけに振り切った本になっています。
リアルな顔の描き方が学べる技法書はすでにたくさんあるので、皆さんが一番描きたいだろうと思った10代の顔の描きわけに特化した本を作ろうと。
でも実はこの本は、企画段階では男女の体の描きわけをメインに扱っていこうとしていたんです。書いているうちに顔の話をすると長くなってしまったので顔の描き分け方にシフトしていったんです(笑)
その企画段階の時から、リアルな八頭身の男女の描き方や技法書はすでにたくさん出版されているので、なるべくそこでは解説されていないような頭身が低めの女の子と、7頭身か7.5頭身くらいの男の子の描きわけをしようとしようということが決まっていました。
イ:体メインの本からどのように顔の描きわけにシフトしていったのですか?
YANAMi:体の原稿を進めている時におまけ程度に顔の解説を書いていたのですが、編集さんからもっと詳しく!と言われたんです。「YANAMiさんは描けるからこの解説でわかるかもしれないけれど、初心者さん中級者さんは多分付いて来れないよ!」って(笑)。
それで、ちょっと詳しくしてやろう!と思ってみっちり詰めて送ったら、この量だと本1冊分書けますねって言われて、紆余曲折を経て顔の描き分けだけの本になりました。
無意識に描き分けている、その根拠を探した。
イ:顔の描き分けだけになってから、描く内容の量に変化はありましたか?
YANAMi:最初は体メインの時よりも内容が少なくなるかもしれないと気にしていたのですが、編集さんに目は?鼻は?って聞かれているうちに、言われてみれば私はそれらのパーツを無意識に描けているということに気づいたんです。
そこから自分が無意識に描いているパーツを男女に分けて、いくつかのバリエーションで描いてみて、私はなんで無意識にこの描き分けをしたんだろう?と理屈を後から考えながら解説をしました。
そうこうしているうちにどんどん内容が膨らんでいったので、結果的に大ボリュームになりました(笑)。
イ:先生は描き分けを無意識でやっていたのですね
YANAMi:そうですね。無意識に描き分けていたところを、自分が描き分けている理由を考えつつ解説をつけていました。初心者さんは、この描き分け方をする明確な理由がわからないと手癖で自分が描きやすい方に戻しちゃうかなって思ったんですね。
だから、誰にでも納得してもらえるような理由を後付けました。技術的な描き分けをしているのですが、それを正しいとする根拠や理由を後から考えたという形です。
イ:誰にでも納得してもらえる理由はどのように考えたのですか?
YANAMi:なるべく私しかやっていない描き分けにはならないように、色んな人が描いている絵を見て平均値を取っていました。
自分の手癖が出てしまって、わからないなと思うところは特に複数人のイラストレーターさんの絵を確認しながら平均を取っていました(笑)。平均値を取ってみんながこういう描き分けをしているのはなぜだろう?と分析しながら、万人が理解してくれそうな解説を後ろに添えて進めていきました。
また、基本は美術解剖図に載っている成人男性の顔のバランスをベースにして、幼い年齢の顔のバランスと比べながら、その中間くらいの割合を出して7頭身か7.5頭身くらいの男の子の顔の比率を出していきました。
デフォルメされている絵といえど、美術解剖的な理屈に沿って解説されているので、納得してもらえるかなと。
イ:初心者がつまづきやすいところはどのように考えていましたか?
YANAMi:自分一人だと、どこでつまづいていたか忘れてしまうことも多くあったのですが、そういう時に専門学校の講師やっていて良かったなと思います(笑)。
高校生から社会人の方まで幅広い世代の方を見る機会があるので、本当に全く絵を描いたことがない方がどこでつまづくのか見ていました。
このような初心者向けの本を買う人って高校生くらいの若い世代が多いんじゃないかなと思って、専門でそれくらいの世代の子を受け持つことが多いので、添削した時に引っかかっているところをメモするようにしました。
イ:描き分けのアイデアがなくなった時はどうしていましたか?
YANAMi:アイデアがなくなってしまうことはあまりなかったのですが、編集してみて足りなかったところを最終的にコラムで調整していました。実は足りなかったところはかなり入稿ギリギリまで描いていました。
入稿の一週間前くらいに編集さんからページが足りない!と言われて、1ページで気の利いたコラムを描きました(笑)。
私もそうなのですが、この本に携わってくださった編集さんがアイデアを出してくれるタイプの方だったので、お互いにアイデアを出し合って、多すぎるくらいに描いていました。
私がもしアイデアを出せなくても、編集さんが出してくださっていたような気がしますね。逆に出したアイデアをバッサリ切ることができなかったので、編集長さんがそこは無くしてもいいんじゃないの?と一言言ってもらってようやく調整が取れるような感じでした(笑)。
制作中に苦労したこと。
イ:今まで出版してきた書籍との大きな違いを教えてください
YANAMi:一番は密度を薄めに画像を大きく、見やすくというところです。以前『オジサン描き分けテクニック 顔・からだ編』という本を書かせていただいたのですが、こっちはターゲットとなる年齢は高いだろうと予想していたんです。
また、買うのは中級者以上、上級者の方あたりだろうなという話になっていたので、かなり密度が高めになっていました。顔の項目も、今回の本に負けず劣らず入っている上に体の描き方も詳しく解説しているので、見やすいように心がけていますが文字も画像も小さいんです。
これは初心者さんには読みづらいかなと思ったので、今回はその真逆のアプローチを心がけるようにしました。
文字も画像も大きめにして、なるべく図解の横に実際に完成した作例を載せるようにしています。中級者以上の方になると完成図を想像できるようになるのですが、なかなか初心者さんは想像しづらいところがあると思うので、図は1個でいいかと思うところもあえて丁寧に2つにしました。
イ:本を作っていてどんなところで苦労しましたか?
YANAMi:筋肉の表現が大変でした。男の子の筋肉とかで斜線を使いたいのですが、それが果たして筋肉の輪郭線なのか陰影なのか区別がつかないかなと思ったので、なるべく斜線を使わないようにしました。
編集さんからも、真似しやすくてシンプルな線で表現してくださいと言われていたので。でも、そうすると筋肉ってすごい難しいんですよ(笑)。アニメーターさんは線だけで人を描いているプロなので、参考にして何度も分析を重ねました。
あとは地味なところで、描き方手順のところをなるべく男女で整合性を持たせようとしたので、このページでは数値を分数で書いているのに他では小数で書いている、とかそういうところを直すのに苦労しました(笑)。
イ:本のデザイン的なところでも苦労されたのですね
YANAMi:はい、色もページによって赤だったりグレーだったりするところがあって、そういうところを細かく修正するのが大変でした(笑)。私自身細かい部分の整合性が取れていない教科書とかを見るとかなり気にしてしまうタイプなので、自分の本はそうならないようにと気を付けました。
イ:YANAMi先生が描き分けで苦労されたところは何ですか?
YANAMi:表情の描き分けですかね。この本でも書いているように、表情って別に女性が男性のような表情をしていても問題がないんですね。あくまで印象論でしかないので、どこまで描き分け方をハッキリ言っていいものかというところで悩みました。
女性が男性のような表情をしていても良いということを冒頭で断りを入れた上で、男性の方が顔が崩れる頻度が高くて女性の方はどんなに顔を崩すにしても限度があるぞ!みたいな紹介をしています(笑)。
怒り顔は特に悩みました。基本的に女性の方が男性よりも眉毛が目から離れているのですが、怒ると両者とも眉毛が目に近づくじゃないですか。
だから、漫画を描くときに怒っている顔の違いが出るとすれば、女性は多分自分より大きい相手に怒ることが多くて、男性は自分と同身長くらいの人に怒るだろうと考えました。そこから女性は見上げるような感じで怒らせると違いが出るかなと思って描いています。
新しく発見したことや楽しかったこと。
イ:本を描いていて新しく発見したことを教えてください
YANAMi:私、日頃タレ目キャラをあまり描かないんですよ。男性のタレ目キャラは描くんですけど、女性のタレ目はほとんど描かないので結構試行錯誤しました。女性をタレ目にしたまま煽りにしたり俯瞰にしたりするのってどうするのかなと(笑)。
顔を斜めにするとせっかくたらした目尻が見えなくなるんですね。いかにタレ目に見せられるか研究して、二重まぶたの線を下げ気味に描きつつ目から離してあげると、タレ目っぽくなるぞ!と発見しました。
目の立体感を考えると本当は若干ツリ目がちになるのですが、タレ目という個性を優先させるのであれば立体的なまぶたの変形は抑えてください、と説明しています。
逆にツリ目が個性としてある場合、煽りになるとタレ目になってしまうのですが、上瞼の線の内側と外側の配分を少し工夫すると仰向けでもツリ目っぽくなるということを発見したのでそこも載せました。
イ:本の制作中、捗ったところはどこですか?
YANAMi:表情ですかね!思いつくところまでは本当に苦労したのですが、清書の段階ではとても楽しかったです(笑)。描き方手順とかパーツとかは正確に、間違いがないように描かなきゃというプレッシャーがあったので大変だったのですが、顔の表情は勢いが第一なので勢い任せに描いて良いってこんなに楽だったんだと思いました(笑)。
あとは髪の毛も捗りました。日頃自分が描かない髪の毛とかを他の方の描き方を探りつつ描いていて、逆にそれが新鮮で楽しかったですね。縦巻きロールは楽しかったです!
ドリルのような硬い縦巻きロールはいかにもアニメキャラのようになるし、根元がゆるい方は少女漫画のお嬢様になるな、とか考えるのは面白かったです。
これに合わせて男性の縦巻きロールを描かなきゃいけないときは少し悩みました(笑)。ただ、これも漫画家さんや他のイラストレーターさんの描き方を参考にして、楽しく描くことができました。
皆さんへのメッセージ
イ:最後に、絵を描いている人やこれから描こうとしている方にメッセージをお願いします
YANAMi:「男女の顔の描きわけ」の冒頭と最後でも大見出しで言おうとして編集部の方々に止められちゃったんですが、「顔だけ絵師になろう!」と言いたいです(笑)。
この本を描きあげてから、ぶっちゃけ顔だけ描けりゃ漫画もいける!と思って(笑)。顔のアングルのバリエーションだけでもたくさん描ければ、ちゃんとドラマチックになるんです。
プロの方でも同じようなことをおっしゃっている方がいて、実際にその方は顔だけの漫画を実践していてそれがものすごく良いものだったんですね。
バリエーション豊かに描くことができれば、顔だけの漫画でも面白くできるんだと確信しました。なので、自信を持って顔だけ絵師と名乗れるようになってくださいとお伝えしたいです!
顔をマスターすれば大概のものは描けると思うので、体を描くのは難しいなと感じる方にはまず顔を極めてみませんか?とオススメしたいです。
YANAMi先生、本日はありがとうございました!
編集後記
顔の描き方だけに特化した新しい技法書は「顔だけ絵師」という、絵との新しい向き合い方を教えてくれました。皆さんも、『男女の顔の描きわけ 角度別・年齢別・表情別のキャラデッサン』を参考に、まずは顔から完璧にマスターしてみてはいかがでしょうか。
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