©ONEder Inc./舞台「元号男子」製作委員会
大正・昭和・平成・令和、それぞれの元号を擬人化した志島とひろ先生による『元号男子』。CDドラマ化を経て、2021年3月には舞台公演が予定されています。今回は『元号男子』を中心に、擬人化キャラクターデザインのコツやイラストのこだわりについて志島先生にインタビュー。擬人化イラストのルーツに見えてきたのは(意外にも?)妖怪でした。
この記事の目次
令和への改元から始まった『元号男子』。昭和さんのキャラはちょっとだけ悩んだ?
――『元号男子』の企画が生まれたきっかけについて教えてください。
志島:平成から令和に変わる直前あたりにTwitterに大正さんや昭和さん、平成くんや令和くんのイラストを投稿したのが始まりです。自分の人生で元号が変わる体験は初めてだったし、元号を擬人化したら楽しくなりそうだなと思って。
(志島とひろ先生『元号男子』の中心キャラ、大正・昭和・平成・令和の4人。それぞれの時代を反映するキャラ付けがされている)
――発表されたあとの反響についてはいかがでしたか。
志島:ふだんのお仕事でイラストを見てくれている女性たちにも刺さったようで、良い反応をいただけました! それぞれの年号のイメージに「分かる」と言ってくださったり。
――元号男子の4人の性格はすぐに決まったのでしょうか?
志島:割とすぐに決まっていきました。一番悩んだのは昭和さんかもしれません。昭和という時代が長いので……前半は戦争の雰囲気を残しているし、バブル時代もあってモテる男性のイメージもあります。大事にしたのは、今の時代からその時代を捉えたイメージです。大正さんでいうと、大正ロマンは今でもおしゃれで人気じゃないですか。
そう考えると、いまの昭和世代は硬い日本男児風なところもあるけれど、お腹を大事にして腹巻きをするような、憎めないおじさん的な面もある。そういう風にキャラづくりをしていきました。
――おっしゃられていた通り、元号男子はそれぞれの時代の世相や流行を反映している部分がありますよね。
志島:それぞれの時代の歴史についてはよく調べました。それが見た目や洋服、性格に反映されています。令和くんの場合、令和はまだまだ未知数ですし、希望的観測ですが明るい時代になってほしいなあと。大正さんはいろんな海外文化を吸収した和洋折衷の装いや、新しいものも楽しめる性格になっています。一方で大正時代は短かったので、ふっと姿を消しそうな、少し陰のあるイメージですね。
――平成くんが猫派で、昭和さんが中~大型犬を好きなのは、平成に猫動画が、昭和にシベリアン・ハスキーが流行ったりした影響なのかなと思いました。
(志島とひろ先生『元号男子』より。犬派の昭和さんと猫派の平成くん)
志島:実はその辺りは4人を並べたときのバランスで決めていたので、史実を元にしたわけではないんです……! あとは大正さんだったらのらりくらりお散歩してたりするのが好きなので、じゃあ野良猫を可愛がっていそうだな、とか。
イメージぴったりのキャスティングでドラマCD、舞台化が進む『元号男子』
――『元号男子』はその後ドラマCDが発売されましたよね。そのときはどんな感想を抱かれましたか?
志島:あくまで私個人の企画として始まっていたので、お話をいただいたときはただびっくりしました。自分の描きたいものを描いてドラマCDにまでしていただけるなんてとても嬉しかったです。
――声優さんの声とキャラのイメージについてはいかがでしたか?
志島:本当にキャラクターのイメージに合う声優さんをキャスティングしていただいたな……とありがたかったです。さらにそれぞれの声優さんのファンの皆さんに『元号男子』を知っていただいたり広めてくれたりして、さらにもう1回感謝しました。
――さらに舞台『元号男子』の公演も決まっていますね。
志島:俳優さんもイメージに合った方がキャスティングされていて、舞台がとても楽しみです。事前にどの方にキャスティングするか舞台のご担当の方が相談してくださったんです。「平成くんはこういう性格だからこの人が合ってるんじゃないでしょうか」と真剣に考えてくださって、キャラを愛してくださってるのが伝わりました。キャラをつくってよかったな……と思いました。
――脚本・総合演出の川尻恵太さんや、演出の白鳥雄介さんなど、舞台設定などではどんなことを打ち合わせされているんでしょうか?
志島:キャラクターの性格など細かい設定や、洋服の細かい柄などを私から資料をちょこちょこ送らせていただいて相談を進めています。この間はウィッグの色味の監修や、衣装の布地の質感についてお話させていただきました。
――舞台制作過程でファンの方に「ぜひここは楽しみにしていてほしい」というポイントについて教えてください。
志島:舞台『元号男子』のInstagramがあるので、ぜひフォローしていただきたいです! 令和くんが更新しているのですが、舞台ができていく過程の写真がどんどんアップされていくはずなので、注目してみてください。
志島とひろの擬人化キャラデザの原体験は妖怪?
(志島とひろ先生による、『トムとジェリー』の擬人化。色味や表情、服装などからキャラの特徴がすぐ分かる)
――志島先生はどういった経緯で擬人化に惹かれていったんでしょうか。
志島:もともと中学生の頃くらいから、自分が好きな作品のキャラを擬人化するのが好きでした。私は『ケロロ軍曹』や『トムとジェリー』『アンパンマン』『とっとこハム太郎』とか動物ものやキャラものが好きだったんです。そういった作品のキャラを自分の絵に落としていくのが本当に楽しくて……。
他にも「サーティワンアイスクリーム」の擬人化なども描いていました。
――擬人化イラストの醍醐味ってどんなものでしょうか。
志島:「萌えの形」が変わるところだと思うんです。例えばかわいい猫とネズミの『トムとジェリー』が美男子になったとき、「かわいい」から「かっこいい」に萌え方が変わる。元になったキャラを見て「分かる分かる」って思ってもらえるのも楽しいです。
擬人化は描く人によって解釈や表現が変わるのもいいですよね。自分はきれいなお顔に描くのが好きなのですが、違う表現も有り得ます。
――擬人化する際は、設定を文字に書いてラフに起こしたりするんでしょうか?
志島:私はずっと擬人化沼にいて慣れているので……頭の中のイメージが湧いたらラフを描くことが多いですが、ちょいちょいメモ書きをすることもあります。例えば『トムとジェリー』のトムだったら「いじわるっぽい」とか箇条書きをして見た目のイメージを掴みます。
――キャラ設定の上で違いが出やすい特徴はどんなものでしょうか。
志島:パーツの描き分けには気をつけています。『元号男子』でも、目の描き方はちゃんと被らないように私なりに気をつけています。見た目で被らないようにするのは大切ですね。性格でいうと、大まかに「動」と「静」に分けるのもポイントです。元気な子がいたら、静かな子も用意するとか。
――キャラが複数いたときの関係性が大事なんですね。
志島:そうですね。お笑いコンビにボケがいればツッコミがいるように、熱い人がいれば冷めた人もいたほうがバランスがとれる気がします。
私が擬人化をしていた子供向けのアニメや漫画って、キャラ性を強めにつくっているんですよね。元が人間じゃない、奇抜で変わったものしかいない(笑)。人外がそもそも好きなんですよ。無個性なものよりキャラが立っているものが好きです。『ジョジョの奇妙な冒険』が好きなのは、それもあるかもしれません。
――『ジョジョ』は個性的なキャラのオンパレードですもんね。他にも影響を受けた漫画・アニメはありますか?
志島:好きなキャラでいうとアニメ『モノノ怪』の薬売りさんですね。人間じゃないけどイケメン。奇抜な世界の中でどっしり構えているのがいいんです。掘り下げて考えてみると、妖怪や人外が好きになったのって水木しげる先生の作品や『地獄先生ぬ~べ~』の影響が大きいかもしれません。妖怪たちって個性でしかないんですよね。形はさまざまで、何を目的として生きているかもよく分からない……でも「何この世界楽しい!」って思える。『元号男子』たちも人間じゃないんだけど人間のように生きてる存在。どこか陰があったりもする。人外のキャラには過去に愛した人がいたんだけど相手に先に旅立たれてしまったとか……そんな背景を想像するのが好きです。それって妖怪漫画やアニメの、異類婚姻譚(いるいこんるいたん)の影響がある気がします。
――妖怪のお話と『元号男子』がつながったのは驚きでもあり納得でもありました!
上品な色気を表現する「手」へのこだわり。絵を学ぶ上で大事なのは「熱量」
――ここからは志島先生が絵を描く上でのこだわりについて伺いたいです。志島先生は「手」にこだわっていると伺いました。
志島:直接的に色気を出すよりも、手は上品な色気を表現できるパーツだと思うんです。袖から手首だけ覗いているとか……。そう気がついてから、一番手に力を入れて描くようになりました。なぜ手に色気が表れるかというと、人に触れるからじゃないかと思うんですよね。色気を移せるというか、手には性格が出るし、触れ方一つで感情や関係性も表せます。2人並んだ絵を手の触れ方に気をつけて描いただけですごく萌える絵になったのを覚えています。
――なるほど。人に触れるパーツだから色気が表せると。手を描く練習はどうやってされたんですか?
志島:最初は自分の手がお手本でした。見える範囲に有るので……それで自分が考えたポーズをとったり、最初はものに触れるとか触れ方を研究していました。
自分の手の中心線、骨組みだけとって二次元イラスト的に美しく見えるようにしていきました。
――男女のキャラの手の描き分けのポイントはありますか?
志島:女性の場合、全体的なシルエットは細めにしています。骨が分からないように描いたり、小指を立てる仕草にしたり上品に見えるように気をつけています。
男性の場合は、節々まで骨を意識して描いています。あとは色味も女性はピンク系、男性は黄色系に分けて描きます。
(志島とひろ先生が手についてまとめた本より抜粋)
――今回「お絵かき講座パルミー」の「擬人化キャラデザ講座」を収録されていかがでしたか?
志島:講座の中でお話していて改めて思ったのは、擬人化は連想ゲームだということです。元になるものがあって人間にしていくときに、自分だったらどうするか。例えば「サーティワンアイスクリーム」の「チョコミント」を擬人化するなら。チョコミントは人気だけど苦手な人もいそう。好みが分かれる。万人に好かれるというより一捻りある。そうしたらそれを人間の性格に変換して考えてみます。例えば変わり者、好き嫌いが激しいとか。そうやってバーッと連想ゲームをしていくと擬人化すると映える要素が出てくると思います。
――1人でブレインストーミングするようにアイデアを出していくといいんですね。志島先生は絵を学ぶ上で大切なことは何だと思われますか?
志島:熱量だと思います。私が擬人化イラストを続けてこられたのも、「人外が好き」「これを人間の見た目で見てみたい」という思いがあったからです。手の描き方についてもつきつめたい思いがありました。『元号男子』はほのぼのしてイケメンキャラが好きな女性の方に見てもらえるようにアレンジしていますが、自分が好きな人外でありつつ、萌えに特化してるんです。
何か1つでも自分はこれを極めたい、表現したいという気持ちが大事だと思います。そのためには自分が何を描きたいか、上手になりたいか、好きな気持ちを見つめてみるといいんじゃないでしょうか。
――ありがとうございます。最後に、今後取り組んでみたいことをぜひ教えてください。
志島:『元号男子』が舞台化もしてとても幸せな日々ですが、さらにちょっとしたアニメやショートムービーになると嬉しいなと思っています。
あとはイラストレーターという職業は個々人で日々戦っている人が多いと思うんですが、一方で横のつながりがないのが悩みなんですよね。あまり他の人とお話する機会が少なくて。画風のこととか、なんでこの絵はこう描いたんですかとか、実は妖怪好きなんですとか……お仕事関係でお会いする人たち以外ともぜひお話してみたいです。そんな人たちと一緒に新しい作品づくりができたら楽しいなと考えています。
――そんなつながりから新しいコンテンツが生まれたら良いですね。今日はお話ありがとうございました!
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