世に出る1枚のイラストにはプロと呼ばれるだけの技術と、それを学ぶための努力、絵を仕上げるための機材費用、そして絵のクオリティに比例した制作時間がかかっている高級な手作りの一品です。
しかしながら、イラストをプロに依頼するという行為はインターネットを通して誰でも気軽にできてしまうために様々なトラブルも発生しています。
この記事では依頼料の考え方・仕事を頼む手段・トラブルが起きないようにするための絵に対する認識の一例を紹介します。
この記事の目次
イラストの依頼について
イラストを依頼する上で、以下の3つを押さえれば完璧な依頼者になれるでしょう
①適切以上の依頼料
②適切な依頼方法
③適切な依頼を行うための、絵やイラストレーターに関する認識
上記をあくまで一例ですがご紹介します。
イラストレーターと収入
「プロのイラストレーター」=「お金をもらって絵を描く人」
専業のイラストレーターの場合、通常のサラリーマンと同等の年収を稼ぐには年収の約2倍の売上が必要です。
※売上は(税金を引かれる前)の金額
参考までに云うと現在僕は年収1000万円あたりです、もちろん経費はかかりまくりですから会社員で云うと半分にして年収500万円って所かと思います RT @nanako_okw: 絵描き屋さんってそんなに上手くなくてもカリスマ扱いで年収数千万もらえるなら私でも頑張れば月15万はいけ
— あきまん_PLAMAXオリジナル美少女可動プラモデル群開発中 (@akiman7) 2013年6月22日
僕の場合、最近は年間の総収入が平均で1300万ぐらい(税を引く前の金額)。請負いの収入はそのうち3割ぐらいですが、最近は仕事自体を絞っていてこれなので多い方かと。なお今年は単価の高いお仕事が複数あり、同人誌もお陰様でよく出ているので平均の1.5倍ぐらいの収入になりそう。
— 吉田誠治/ティア130ぬ21a/C97月曜南3モ22a (@yoshida_seiji) 2019年11月13日
フリーランス絵描きだと年収1500万前後でひとつ山があるのは、だいたいこのあたりから持ってかれる税額がエグくて働く気力を失うというのはありそう。2000万オーバーが見込めると、しゃあないやるか…ってまた少しやる気が出てくる感じかな…。
— 加藤アカツキ (@AkatsukiKatoh) 2019年11月13日
イラストレーターひとりでクライアントワークだけを請けて稼げる限界、案件の規模にもよると思いますが、売上3000万円くらいが壁でしょうか…?(あくまで想像)
— サタケシュンスケ|イラストレーター(20年2月個展 東京浅草) (@satakeshunsuke) 2019年10月3日
億を稼ぐ人もいる漫画家やミュージシャンと比べてなんだか少ない気がするのは、やっぱり権利収入の差…かなと? #もっとお金の話をしよう
イラストレーターはお金をもらって絵を描けば”プロ”を名乗ることができますが、知名度のあるイラストレーターとなると売上は1000万〜3000万くらいが一つの基準でしょうか?
仮に全平日(260日)労働したとして、単純計算で一日に38,461円~115,384円稼ぐ必要があります。
時給に換算して4,807円〜14,422円が労働対価です。
ちなみに関東圏(埼玉)で人並みに生活が送れる手取りは約520万円だそうです。(出典1)
フリーのイラストレーターがサラリーマンと同じ手取り500万程度を稼ぐには、イラストの報酬として一年間に1000万ほど売上が必要です。
※個人事業主は課税所得の約半分を税金として国に払わなければなりません。
イラストの製作に必要な時間
全てのイラストレーターに当てはまるわけではありませんが、イラストが出来上がるまでの工程を4つに分類してみます。
①依頼/見積もり/契約までのやり取りの時間
初めてコンタクトを取る〜依頼の発注指示書を提示して、契約の取り交わしが成立するまでの時間です。
②資料収集/デザインの時間
依頼するときの指示書に「この用途に使う/このデザインのキャラクターを/このポーズで/このレベルのクオリティで仕上げて」といった詳細が詰められていればこの工程は僅かな時間で済みます。
しかし、依頼内容がふんわりとしていたり、デザインパターンを要求されたり、そもそもの分野外のデザインや技術を要求されれる場合は資料集めやデザインを練る時間が多く必要となります。
③イラスト制作作業時間
イラストの実際の制作時間はイラストレーターの手法や作業スピードに依存するため、一概にどのくらいかかるかは不明です。
イラストメイキングを公開されているイラストレーターは作業時間を明記されていることもあるので、そのイラストのクオリティを出すためにどのくらい作業を行ったかの一つの目安となると思います。
④依頼先からのフィードバック対応
デザイン、ラフや塗りごとに、依頼者のイメージと相違がないか確認の工程を取ります。
依頼の内容がふんわりしていたり、デザインがメインの依頼である場合この部分に多く時間が割かれます。
依頼時点でイラストレーターが「この依頼者はフィードバック対応が多そうだな」と判断した場合、これを加味して高めに見積もりをする場合もあります。
もしくは「フィードバックは1工程1回まで、以前の工程で決まったポーズやデザインの修正はしない」といった条件を提示する場合もあります。
イラストの相場(一例)
例えば依頼料が10万(税別)あれば、
①依頼のやり取り:2時間
②資料収集/デザイン:3時間
③制作作業時間:12時間
④フィードバック対応:3時間
手取り500万相当のイラストレーターの時間を確保できます。
これは
・キャラ1枚、背景はなし
・依頼段階で描くもののデザインや詳細が具体的に決まっている
・手が早いイラストレーターである
・フィードバックは画像の調整など最低限で済ませられる信頼がある
といった、かなり制限のある依頼で、イラストレーターの拘束時間が3日程度のものを想定しています。
逆に同じキャラ1枚絵でも、
・プロジェクトの打ち合わせ会議に出席してもらい、依頼内容を口頭でつめていく
・デザインも何度かフィードバックが発生しそうで、リテイクの可能性がある。
・普段の自分の作風とは違う絵柄・デザインを求められる
・デザインを詰めるため、複数案デザインを求められる
・求められる絵のクオリティが高い(◯◯みたいな絵、でコストが高い絵を指定する)
・依頼者に絵・デザインの素養が少なく、一緒に仕事をするのが大変そう
といった条件のつく依頼であれば、何倍もの拘束時間が発生し、数倍〜数十倍の依頼料が必要となります。
さらに、売上3000万を得ているような売れっ子イラストレーターに依頼する場合は、上記の3倍の値段が必要となってきます。
もし、依頼料を安く抑えたいのであれば
何よりもまず、イラストレーターの時間を消費させない依頼が大切です。 明確に描いてほしいものが決まっているのであれあば、イラストの用途からモチーフの資料をまでを用意し、詳細をしっかり伝えましょう。
イラストの依頼方法
イラストの依頼はイラストレーターによって様々です。
多くはメールでの受付ですが、中には専用フォームをホームページに用意していたり、イラストコミッションサイトを経由しての受付を行っていたりもします。
また、そもそもの依頼を受け付けてない場合もありますので注意しましょう。
依頼はイラストレーターの指定する連絡手段で行おう
依頼受付中のイラストレーターがTwitterやPixivをやっている場合、依頼手段がプロフィールに書かれている場合があります。
また、注意書きに「個人依頼は受け付けてません」「◯月以降の依頼であれば受注可能」といった条件が記載されている場合があるので良く読んで依頼しましょう。
無理のないスケジュールで依頼しよう
基本的にイラストレーターは常に何かしらの依頼を受けている可能性があるため、最低でも1週間くらいは返信期限を定めて待ちましょう。
返信がない場合は忙しいと考えて諦めましょう。
売れっ子作家は一日に何十件も依頼が来る場合もあり、全部に返信しようとすると一日が終わってしまうため返信できない場合もあります。
また、売れっ子のイラストレーターは1年先まで依頼が埋まっていることもざらにあるので、依頼内容の納品期限についても注意が必要です。
一ヶ月後までに描いてくれ、といっても対応できない場合も多いです。
イラストの著作権・実績公開について
イラストには著作権があり、これの取り扱いによっては必要な依頼金額が変わってきます。
また実績公開ができる仕事か、というのも依頼を受ける上での判断基準の一つとなり得ます。
わからないことは見積もりで聞こう!
・詳細な依頼内容と納品までのスケジュール
・現状の仮予算
・目指すクオリティの例となるイラスト
・著作権と実績公開の取り扱いについて
といった情報を添えつつまずはイラストレーターに相談してみてください。
真摯に相談すれば適切な回答が得られやすいです。
貴方の社会的信用度は大事
個人の依頼の場合、イラストレーターは取り合ってくれない場合もあります。
ある程度知名度を持つ知り合いや企業、またはその紹介での依頼であれば、取り交わした契約書に基づき仕事を行い報酬が支払われる、といった安心感がありますが、赤の他人であれば仕事の急なキャンセルや報酬未払いなどのトラブルがある可能性があるからです。
もし貴方が個人の依頼者で、社会的信用度が少ないため依頼を取り合ってくれなければ、イラスト発注を請け負う代理店を挟んだり、前払いでの報酬支払を提案したりしてみるのも手段かもしれません。
依頼する上での、絵やイラストレーターに関する認識
イラストの依頼を行うのであれば、貴方は依頼者として業界に関わる一業界人となります。依頼する上での最低限の認識を身につけましょう。
イラストは簡単という思い込みを排除し「敬意」を持とう
最後に、イラスト依頼者の多くは、「目的の絵」を描く知識・技術がないお絵描きシロウトです。
なのに、
・イラストはサブカルチャーで程度の低いもの
・イラストはPCソフトを使って楽をしている
・イラストは趣味の延長上で楽しい仕事だから安価でやるべき
といった間違った思い込みをしている人がいます。
イラストが文化として身近になり、SNSや書店で気軽に閲覧・購入できるためにそういった感覚の人が現れるのはしょうがないかもしれません。
ですが、その感覚は「無知」とハッキリと断定できる間違った認識です。
イラストはサブカルチャーで程度が低い?
そんなことはありません。
ハイカルチャーとされている油彩画や水彩画などの"純粋芸術"。
これらも当時は大衆芸術であり、その作風は当時の流行とともに発展していったものです。
そして、現代のプロの描くイラストレーションは、最新の視覚芸術を詰め込んだ最先端の"純粋芸術"です。
イラストはPCソフトを使って楽をしている?
そんなことはありません。
デジタルイラストレーターが使用するペイントソフトは、あくまで絵の具と同じ道具です。
ペイントソフトは様々な機能を揃え、表現の幅こそ増えますが、決して楽をするものではありません。
むしろ、ペイントソフトの発展に伴い、求められるイラスト表現の複雑さも増え、新たに参入するプロを目指すイラストレーターは様々な表現を習得しなければなりません。
イラストは趣味の延長上?
そんなことはありません。
プロのイラストはSNS等でも無償で公開されてますが、これは「作家としての営業」「クリエイター同士の交流の一貫」「イラストを通した自己表現」などです。
「依頼者の意向を絵にする作業」は大変な仕事です。
非クリエイターの依頼者が望む表現をカウンセラーのように聞き出し、イラストの目的に合わせ工夫を凝らし最適な表現を行う、様々なスキルを要求される仕事です。
仕事は「敬意」を持って依頼しよう。
イラストレーターへの依頼に限ることではありませんが、その分野でプロとなる能力を持つ人間は、ちょっとやそっとじゃ真似できない様々なスキルや経験を持っています。
まず「敬意」を持って依頼しましょう。
まとめ
以上、あくまで一例、一意見ですがイラストの依頼料や依頼方法の考え方の紹介でした。
もしイラストを依頼したいと考えている方は、まずはイラストレーターに「敬意」を持って然るべき手段と報酬をもって依頼してみてください。
出典1)https://www.asahi.com/articles/ASK4J3VPPK4JUTNB004.html