頭、胴体、腕や脚と、人体の構造が難しくてキャラクターが描けない…と悩んでいらっしゃる方は多いと思います。骨や筋肉などの体の内側を意識した美術解剖学的視点を持つことで、人体の構造が理解しやすくなり、イラストも描きやすくなると思います。
そこで今回は、人体の基礎をPixivにまとめていらっしゃった、けりるさんの解説イラストから、美術解剖学的視点からの人体の描き方について見てみましょう!
※この記事で紹介している内容はご本人の許可を得て掲載しています。
この記事の目次
美術解剖学視点で学ぶ人体の基礎
はじめに
絵を描くために抑えておきたいところを重点的にピックアップした、人体の基礎的な知識の解説となっています。
頭部、頸部、胴体、腕、脚、全身の順に解説していきます。
1.1.頭部
頭部の三面図を載せています。
頭部は球というより、角を取った直方体に近く、面を意識して描きます。
側面は、矢印の辺りからカクッと角度が変わります。
顔の前面は結構平らです。
頭部は、横幅より奥行きの方があります。
また、横幅は後頭部寄りの方が、若干幅が広いです。
1.2.頭部-正面
目と耳の付け根の上幅は、頭部のほぼ中央の高さにあります。
メガネをかけても違和感がないよう意識すると良いです。
耳は、上を向くと目より下の位置になり、下を向くと目より上の位置になるので、頭の角度を表現するのにも便利です。
鼻の下端は1/4、唇の下の凹みは1/8が目安です。
目の横位置は、1/4より中央寄りです。
口の幅は、口の中央と大体同じ位置くらいです。
1.3.頭部-側面
頭部の側面は、四角を四分割し、中央に耳がくるようなイメージを持って描くと良いです。
耳の付け根はほぼ中央です。
後頭部のラインは、鼻の下端と同じか、それよりも少し下くらいまで続きます。
耳の下端も鼻の下端と大体同じか、少し上あたりです。
あごのラインは、耳の真下から出ています。
鼻頭とあごを結んだ線を、Eラインと言います。
唇がEラインより後ろだと凛々しく、前だと幼い印象になります。
白人は後ろ気味、東洋人は一直線、黒人は前気味です。
1.4.頭部-目
二重の場合、矢印の部分が大きく凹みます。
下まぶたは、上まぶたの下に入り込んでいます。
影の付け方に注意しましょう。
上まつげ毛は、まぶたの内側から生えていますが、下まつ毛は眼球と離れた位置から生えています。
角度をつけて描く場合は、目は球体であることを意識します。
目の描き方のイメージの解説です。
実際、この手順で描く必要はありませんが、目の周りの凹凸はかなり複雑なので、頭の中で解説の手順をイメージできると良いです。
①顔の表面の線を引く。
②眼窩のくぼみを入れる。
③眼球をはめる。
④まぶたを乗せる。
⑤赤の箇所は光が当たりやすく、青の部分は影になりやすいことを意識して仕上げる。
1.5.頭部-鼻
鼻は、4つの丸い膨らみを意識して描きます。
鼻翼はVの字に上がっています。
鼻孔は、下から見ると前後に長いです。
鼻が高いほど長めになります。
1.6.頭部-口周り
赤の丸は、頬骨、あご骨、口の周りの口輪筋の膨らみです。
緑の丸は、凹んでいる部分です。
これらの凹凸を意識して描くと良いです。
唇は、青の5つの膨らみを意識して描きます。
下唇は、上唇の下に入り込んでいきます。
口端の影の付け方に注意します。
1.7.頭部-耳
耳は、9の字のライン(赤線)と、yの字のライン(青線)、耳珠の膨らみ(緑斜線)を抑えておけば、それらしく描けます。
耳は少し斜めに付いています。
1.8.頭部-子ども
子どもは、5歳程度で眼球と脳は成人とほぼ変わらないサイズになります。
ですが、あごから下は未発達な部分が多く、相対的に目と後頭部が大きく、顔のパーツが下寄りに見えます。
顔の基本構成は成人と大体同じです。
子どもを描く際は、頬と後頭部の丸さを意識しましょう。
1.9.頭部-老人
老人は、全体的に肉が落ち、骨が目立ち、残った皮膚が重力に引っ張られてたるみます。
・額やこめかみにしわができる
・目の下のくぼみや、目尻のたるみ
・頬骨もくっきり見える
・耳たぶが大きくなり、少し垂れ下がる
・唇が薄くなり、口端も下がる
・頬の肉は下がり、ほうれい線もくっきり線ができる
・首も細くなり、シワが目立つ
2.1.頸部
胸鎖乳突筋(赤線)は、耳の後ろから出て、鎖骨の根本あたりまでをつなぎます。
胸鎖乳突筋と鎖骨によって、3つの三角のくぼみ(青線)ができます。
首は、横から見ると、少し斜めについています。
僧帽筋(緑線)は、後ろ首から回り込んできます。
首との重なり方に注意しましょう。
正面から見ると、肩より首が前、背中から見ると、首より肩が前に見えます。
鎖骨は真っ直ぐではなく、若干S字のラインを描いています。
正面、横、上から見てもS字になります。
鎖骨の先に出っ張りがあります。(肩峰)
首の骨にも出っ張りがあります。(隆椎)
鎖骨、肩峰、隆椎は、ほぼ一直線です。
肩は中央でなく、背中よりに付いています。
あご、喉仏、肩峰、鎖骨の根元の高さは、それぞれ3等分くらいになります。
2.2.頸部-肩の動き
腕を上げると、肩も同時に上がります。
この時、鎖骨も上がります。
横方向だけではなく、前や後ろに回しても、肩は上がります。
3.1.胴体-正面
三角筋(青)は、肩全体に覆いかぶさるようについています。
大胸筋(赤)は、胸の中央部から伸び、三角筋の下を潜って、上腕の骨までつないでいます。
また、大胸筋が発達すると、乳首は下がります。
前鋸筋(水色)は、肋骨の上に沿ってあります。
発達すると、肋骨と同じラインに3個ほど浮いて見えます。
外腹斜筋(紫)は、体の側面から腹部にかけて、斜めに降りています。
前鋸筋と外腹斜筋は、ジグザグに重なり合っています。
発達すると、腰骨の上辺りが大きく盛り上がります。
腹直筋(緑)は、少し盛り上がっていて、側部や下部の境目は溝があるように描くと良いです。
また、発達するとヘソより上が3段に分かれます。
腹直筋、前鋸筋、外腹斜筋は、大胸筋が発達すると、上部がその下に埋もれていきます。
三角筋のラインは、僧帽筋のラインに続いています。
大胸筋は脇の辺りで交差するようになっていて、脇の下を通り、腕につながっています。
腹部に近い方が下で、肩に近づくほど上です。
影の付け方に注意しましょう。
大胸筋は、脇の下を通りますが、脇のラインは肩の方まで上がっていきません。
三角筋の下に潜っていくことを意識しましょう。
3.2.胴体-側面
体の側面には、広背筋(緑)が脇から背中にかけて広がっています。
広背筋が発達すると、側面の中央辺りに斜めの溝ができます。
三角筋は前部、中部、後部の3束があり、肩全体を覆うようにかぶさっています。
真横に降りてくるというよりは、少し前寄りにねじれるように降りていきます。
3.3.胴体-背面
首の骨に出っ張りがあります。(隆椎)
僧帽筋(赤)は、背中上部の広範囲から発生し、肩の上を通って前に回り込んでいます。
三角筋(青)は、肩全体に覆いかぶさっています。
棘下筋(紫)と大円筋(橙)は、肩甲骨の上にかぶさっています。
棘下筋は三角筋の下に、大円筋は脇の下に続いています。
広背筋(緑)は、背中の広範囲を覆い、脇の下にへ上がっていきます。
上端は僧帽筋の下に潜り込んでいます。
外腹斜筋(桃色)も後ろから見えます。
大臀筋(水色)は、尻の筋肉です。
隆椎の周り(紫)は筋肉が薄く、ひし形に凹んでいます。
背中の中央(青)は、反るほど溝が目立ちます。
背中を丸めると、背骨が浮いてきます。
仙棘筋(緑)は、僧帽筋や広背筋などの下を縦に降りてきている筋肉で、男性はよく発達しています。
尻の上、仙骨あたり(赤)は筋肉が薄く、ひし形に凹んでいます。
男性より女性の方が面積は広いです。
3.4.胴体-女性
女性は、男性に比べ、肋骨の幅が狭く、骨盤は幅も丈も大きいです。
肋骨と骨盤の間は狭いです。
男性より、鎖骨の角度があり、隆椎はより目立っています。
女性の乳房は、首からぶら下がるように付いています。
また、まっすぐ正面向きではなく、外側に向いています。
ただし、ブラなどを身につけている場合、形がよく見えるよう寄せて上げているのが一般的なので、かなり形が違って見えます。
そのため、服を着ている絵を描く場合、ブラやビキニなどを身につけているものを参考にすると良いです。
3.5.胴体-描き方
解説イラストのパーツを意識して描き入れればそれらしくなります。
体のパーツが変わるところは、線の流れや影の付き方が変わるのを意識しましょう。
4.1.腕
腕の筋肉は、上腕は前後に、前腕は左右に厚く付いています。
手首には腱の筋が浮かびます。
肘を曲げても、真ん中に骨があり、左右に筋肉の膨らみがあることを意識します。
・手首の小指側は、骨が出っ張っています。
・外側の筋肉は伸び、前腕を斜めに走ります。
・内側の筋肉が縮んで膨らみます。
・前腕内側の中央あたりが少し凹みます。
前腕の骨は2本あり、手首を返すと交差します。
このとき、筋肉も同時にねじれます。
骨が交差しているとしっかり分かるように描くと良いです。
4.2.腕-手
指は手の付け根あたりから、放射状に伸びていて(赤線)、指の付け根の間には隙間があります(青丸)。
指の長さは個人差もありますが、概ね、中指>薬指>人差し指>小指>親指の順です。
指の関節は、曲線でキレイに繋がります。(緑線)。
親指は、他の指より45度ほど内側に傾いています。
指を閉じた場合も、平行ではなく、菱形のように一度広がって、寄っていきます。
手の付け根は、腕にまっすぐ付いているというよりは、手のひら側に少しずれて付いています。
指の断面は六角形に近い形をしています。
子どもの手は、指が短く、全体的にふっくらしています。
指の関節の見かけ上の長さは、外側から見ると指先ほど短く、内側から見るとほぼ同じ間隔に見えます。
見かけ上の付け根の位置も、内外でかなり違いがあります。
手は、直線的になることはまずありません。
曲面を意識して描くと良いです。
奥の指ほど裏に回り込んでいくので、細くなっていくように見えます。
5.1.脚-正面
縫工筋(青)は、腰骨からひざの内側の真横までをつなぐ筋肉で、縫工筋が通るラインは紐で締め付けられているかのように溝になっています。
上腿を特徴付けている筋肉です。
内側広筋(大腿四頭筋(赤)の一番内側の筋肉)は、縫工筋とひざの間あたりにあり、盛り上がっています。
縫工筋と同じく、上腿を特徴付けている筋肉です。
下腿の外側の筋肉(紫)(前脛骨筋や腓腹筋など)は、ひざからくるぶしあたりまで長く伸びているのに対し、内側の筋肉(水色)(ヒラメ筋と腓腹筋)は、下腿の中央あたりで薄くなるため、丸く盛り上がっている感じになります。
上腿外側は上と下で曲がってます。
股のラインと縫工筋の間あたりは凹みができます。(紫)
上腿、下腿ともに横幅のピークは外側の方が上です。
全体的に外側から内側に斜めに下がっていくような流れになっています。(赤線)
ただし、くるぶしは内側の方が高いです。
上腿の横幅のピークは腰幅よりも幅があります。
脚と脚の間には隙間があります。
ひざの高さは、脚のほぼ中間あたりです。
ただし、中間より少し高めにした方が、スラッとした感じになります。
逆に、低めにすると鈍重そうな印象になります。
脚の正面側は、丸いというよりは少し出っ張っています。
なだらかに影をつけるより、青のラインあたりでカクッと角度が変わって見えるようにすると良いでしょう。
5.2.脚-側面(外側)
上腿・下腿は、側面から見ると前側に下っていくような流れになっています。
くるぶしは、逆に後ろ側に下がっていくような流れになっています。(青線)
腓腹筋・ヒラメ筋(水色)は丸く盛り上がっていて、下端は少し凹みます。
下腿の中央あたりに縦の溝ができます。
上腿の前面は筋肉が厚いですが、下腿の前面は筋肉が薄くなっています。
重心となるラインを引くと、上腿は真ん中を通りますが、下腿はラインの後ろ側になります。
8の字になるようなラインを意識して描くと良いです。
5.3.脚-背面
ハムストリング筋(赤)は、上腿の後ろを覆う筋肉群で、尻の下から下がってきて、ひかがみ(ひざの裏)の両サイドを通るように分かれます。
腓腹筋(青)は、下腿上部を覆う二筋の筋肉で、丸く盛り上がっています。
正面と比べて背面は表面が平らです。
ひざを曲げると、ハムストリング筋の腱がハッキリ浮かびます。
5.4.脚-股関節
股関節の位置は、胴体の真下にあるのではなく、股下より上、かつ少し外側寄りにあります。
脚を曲げている絵を描く場合は、股関節の位置を意識しましょう。
薄筋は股の中央あたりから伸びていて、脚を開くと筋が浮いて見えます。
※解説イラストでは「長内転筋」と記載されていますが、薄筋とのことです。
5.5.脚-足
足の形は、三角推のような形をしています。(赤線)
足の指は、菱形のように寄っていきます。
足の甲は、小指側の方がなだらかです。
足の内側には、土踏まずの凹みがあります。
くるぶしとアキレス腱の間には、凹みができます。
足の指の長さには個人差がありますが、人差し指を一番長く、アーチを描くようにするのが、見栄えが良いです。
親指以外の足の指は、一旦山になっていて、指先で平らになります。
親指は真っ直ぐ平坦です。
指の真ん中あたりは、地面と隙間があります。
6.1.全身-正面
手を上げると、肘は頭頂と同じくらいの高さになります。
手のひらは顔面の大体を覆える程度です。
肩幅は、成人男性で頭の3倍程度。
女性や子どもはそれよりも小さめです。
肘の高さは肋骨の下端と同じくらいの位置です。
足の大きさは、前腕と同じくらいです。
腕の長さは、股下を軽くつかめる程度です。
ひざの高さは脚の中間程度か、それよりも少し上です。
全身のバランスは、年齢や体型、画風などにも左右されます。
6.2.全身-側面
体は、縦にまっすぐではなく、重心を前後するように、弓なりになっています。(青線)
前後にグラつきそうにならないように、バランスを意識しましょう。
・首は少し前側に傾斜しているように
・肩は背中側寄り
・背中は前に反り気味に
・腰は前寄りに
・下腿は重心より後ろ側
・足にはしっかり体重が乗るように
6.3.全身-子ども
鼻筋、あごが短く、顔のパーツは下側に寄っています。
首も短いです。
腹部は筋肉が発達していないため、内臓が下に寄り、下腹部が出っ張っています。
腰のくびれはあまりなく、胴体は下にいくほど広がっていく感じになります。
尻も丸く、大きいです。
腕や脚が短く、手足も小さいです。
二次性徴が始まる10〜15歳あたりまでは、筋肉や皮下脂肪よりも、身長の方が先に成長します。
なので、成人に比べると手足がほっそりしています。
6.4.全身-獣人
耳の生え際は、頭の中央が基準です。
尻尾は尾骨(尻の割れ目の上あたり)から生えてきます。
人間以外の多くの哺乳類や鳥類は、趾行動物、蹄行動物であり、足の関節が逆になっているように見えますが、つま先立ちになっているだけで、骨格の基本構成は人間と同じです。
脚の根元、ひざ、かかと、つま先の位置は、概ね三等分が基準です。
人間のかかとと同じく、アキレス腱やくるぶしの出っ張りがあり、その間(緑斜線)は凹みます。
おわりに
人体の描き方のコツは色々とありますが、人物は個性の出しどころなので、気に入ったところだけを取り入れて、あとはスパッと省略してしまうのもアリとのことです。
美術解剖学的視点からの人体の解説講座でした。
まとめ
人体の構造・人体の絵を描く際のポイントを知ることができました。体の作りを理解して、イラストに活かしたいと思っていらっしゃる方は、けりるさんの解説を参考にしてみてください。
最後に、けりるさんのプロフィールをご紹介します。
けりるさんはイラストレーターをしていらっしゃり、主にドーリィな少年少女や、ファンタジーイラストを描いていらっしゃいます。
PixivやTwitterでは、他にも素敵なイラストをご投稿していらっしゃいますので、ぜひご覧ください!
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